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「逆転男」

私は、カルロスが若かりし頃の上司。といっても彼が30歳過ぎ、私が40代半ばごろの話。元職で同じ民間営業部のころ、一緒にある測量・土木設計コンサルタント会社に営業したときのこと。CADシステムがまだ高価で、当時としては先端を行く1000万円近いシステムの営業を一緒に手掛けていた。XYプロッタ(ペンプロッタ-自動製図装置)や大型のデジタイザ(座標読み取り装置)を中心に構造計算やCADのソフトウェアなど、一連のシステム導入の営業である。

競合相手は、その業界に特化した開発や販売を手掛けるシステム販売会社。彼らがすでに先行しているところに他の土木設計会社からの紹介で見積もりを提出することに。当然、本命は競合他社であるが、「言い値」も避けたいだろうし、安くするために当社からも見積もりをとったという流れ。これまでのつながりもなく営業もしていなかったので、結果は予想通り競合他社に決まった。

しかし、これがカルロスにはよほど悔しかったのだろう。カルロスは、当時はまだ革命騒ぎのある中南米で育った。安逸とした日本とは異なり、生きる厳しさを味わいながら渡日し、負けん気の強い彼にとっては屈辱以外の何物でもなかったようだ。

普通、我々なら一度断られた案件は、次につなぐことを考え波風を立てずに無難に終わらせようとする。控えめに「何が原因でしょう? 価格でしょうか? 提案内容でしょうか?」と遠回しに負けた原因を聞くことはある。実際、同行の際に他社に決まったことを告げられた時にはそのように対応した。一通り断りの言い分を聞いて、これで、ジ・エンドである。

しかし、ここからがカルロスの本領発揮。彼の対応は違った。
「アラァイサン、モイチド、エイギョ、サセテクラサ~イ」…いや、もう少し日本語になっていたので「新井さん、モイチド、営業サッセテ下さい」くらいだったか(笑)。
と言って一人で再交渉に出かけて行った。客先では「も一度、チャンスを下さい。精いっぱい頑張ります。だから契約はまだ待って下さい。」と何度も頭を下げたという。


さすがにお客様も根負けしたらしく、「そこまで言うなら、もう一度だけ見積もりを出し直して下さい。それまで契約をしないで待っています」と約束を取り付けたという。紹介者への配慮もあったと思う。またカルロスも、土木設計やCADシステムでは、すでにシステム営業でも相当な専門家の域に達しており専門用語を使ってのトークもお客様の信用を取るには十分なほどであった。


当時の構造計算は、マルチプランかロータス1.2.3という今でいうExcelのような表計算ソフトで、数式をコツコツ打ち込みながら応力計算するというのが、多少原始的だが便利な手法の一つであった。しかしそれでは電卓と手作業の延長で、多少の時間短縮にはなるが、それほど効率の良いやり方ではなかった。そこで、土木設計専用のメーカーなどが、擁壁や橋脚などの専用の構造計算ソフトウェアをこれまでのミニコンからパソコン用に移植し、販売を始めた。そうしたソフトを使うと格段に効率が上がり大幅な時間短縮になる。また役所のチエックも受けやすく、土木設計コンサルなどがこぞって購入した。

専門領域に特化したシステムだけに、たんに熱意だけでは販売できない。その領域に精通するためにカルロスも慣れない日本語の辞書を引きながら猛勉強したのだと思う。いつやったのだろう? 当時の会社は忙しく帰宅は午前様になることも頻繁にあった。IT企業の多くは未だに3Kと言われ続けるほど長時間勤務が多いが、当時はそれが当たり前の時代であった。
家族もできたばかりで大変だったと思うが、知力体力も人並み外れていたので、寝ないで仕事していたのかなとも思う。

こうしたカルロスの専門性や人間性もお客様を思いとどまらせた背景の一つかと思う。

カルロスはさっそくメーカーと価格交渉をし特価を引き出し、社長の了解を取り付け、見事、逆転勝利を手にした。競合他社より価格は安く、提案内容で勝り、熱意で勝り、知識も豊富でサポートの不安も払しょくし、負けていたのは、それまでのつながりや接触頻度だけ。
お客様も、「彼の熱意に負けた」と言っていたように思う。すごい男が入ってきたと思った。

とにかく普通の営業マンじゃない。沖縄にカルロス有り、とメーカーにも一目置かれる存在となった。そのあと、このエピソードは社内で語り継がれていくことになる。

その後も、彼は常に売上トップの営業マンとして、また、営業部長として様々なシステムを販売していく。グループウェアのロータス・ノーツ(IBM)を県内で広げた第一人者でもある。南風原町や多くの企業で彼の導入したグループウェアが動いている。また、仮想化技術に造詣が深く、自治体や企業の仮想基盤、今でいうクラウドのシステムを多く手掛けている。彼の得意分野だ。エンドユーザーだけでなくSI会社などからも受注をもらうほどである。県内でもクラウドのシステムの構築やコンサルで彼の右に出る人は少ないだろうと思う。

これは、彼を語るほんの一面にすぎない。当時を思い出しながらなので多少の脚色は入っているが単にヨイショのステマではない。わりに控えめに書いたつもりである。彼のエピソードは、多くの人から語られることになろう。あっ、彼はまだ現役で健在なので、そのつもりで(笑)

今は少し丸くなったが、当時の情熱は未だに枯れていない。想いは何処へ!
跳べ、カルロス!

2015年1月20日
(株) 夢づくり沖縄
代表取締役 新井良直